リコーブラックラムズ東京✕ビジャレアルCFのカンファレンスが8月2日、二子玉川ライズで開催された。世田谷区との共催。両クラブは昨年10月、「教育・育成を通じたサステナビリティ推進」を掲げてパートナーシップを締結しており、その一環としてクラブ関係者が来日したもの。《『教えないスキル』に学ぶ未就学児指導》《スポーツチームと考える「人づくり・街づくり」》の2本を切り口に、ラグビー界・スポーツ界にヒントを与えた。
勝利至上主義ではない、育成はプロセス
イベント午後の部では、同クラブ・フットボールマネジメント部の佐伯夕利子氏がマイクを握り、自身の経験から“人づくり”と“まちづくり”について語り尽くした。その内容を追っていこう。
ビジャレアルは、バルセロナ、レアル・マドリードなどに次ぐスペイン・ラ・リーガの強豪クラブで、昨シーズンはリーグ3位。今年のW杯で優勝したスペイン代表26選手のうち、4選手がこのクラブで育成年代を過ごしている。大会最優秀選手賞に輝いたロドリ(マンチェスター・シティ)もその一人だ。
人口わずか5万人の街のクラブで、リソースは限られている。それならば「育てればいい」と、育成を磨いてきた。ただし、その視点は「サッカーが上手い選手を育てる」「強いクラブをつくる」ではない。2014年以降はクラブ会長の号令のもと、「ホリスティック(包括的)な選手育成」へと大きく舵を切った。
印象深かったのは、「10年後の彼らに責任を持つ」という言葉だ。
「指導者の責任は、チームを勝たせることではありません。指導者に期待されるのは"10年後の彼らに責任を持つ"ことなんです。10年後、目の前にいる8歳は18歳に、10歳は成人になっている。もしかしたらビジャレアルとは何の関係もなく、サッカーもやめているかもしれない。その姿を想像して、その姿に責任を持とうよ、と」(佐伯氏)
背景には、厳しい現実がある。スペインのサッカー競技者がプロになる確率はわずか0.038%。しかもプロになれたとしても、引退後5年以内の自己破産率は60%にのぼるという数字が、この日のプレゼンでは示された。

「自分にカメラを向ける」圧巻の取り組み
クラブは、選手に求めるものを3つの柱として言語化している。①主体性②判断・自己決定力③社会性──佐伯氏はこのキーワードを挙げた。
3つの柱を達成するために、指導者の側にも多くが求められる。なかでも圧巻だったのが「自分にカメラを向ける」という取り組みだ。
練習90分、試合前ミーティング、ハーフタイム、ベンチワーク──そのすべてを撮影する。ピンマイクで音声も収録し、週1回2時間、120名の指導者が相互にフィードバックし合う。
「私もたくさんフィードバックをもらいました。最初はとても嫌な時間でしたし、面白くないし、イラッとしました。でもそれが徐々に習慣化され、当たり前の作業になり、面白いワークになった。そして指導者がどんどん自分の改善に意欲的になったんです」(佐伯氏)
選手とフェイス・トゥ・フェイスで向き合うことも、意識的に徹底されている。選手はホワイトボード上のマグネット=コマではないし、PCの中のデータでもない。デジタル化が進むいま、身につまされる指導者も多いのではないだろうか。
ブラックラムズ側の受け止めも熱かった。
「メモをとりまくった。自分たちよりも10年先をいっている。個人が活躍したとき、はじめてチームは機能する。刺激になった」(タンバイ・マットソンHC)

クラブは地域の公共財、企業名は入れない
後半は"街づくり"の視点から、クラブが地域の公共財であること、力を入れる社会貢献活動「Endavant Project」などが説明された。
興味深かったのは、スペインのクラブにはチーム名に企業名を入れない、本拠地を変えないという"掟"がある、という点だ。その思想は、クラブのエンブレムにも表れている。スペインの主要クラブの紋章は、行政の紋章=市章と驚くほど重なっていた。
圧倒的な地域密着。これに触発されて、世田谷区をホストエリアとする「リコーブラックラムズ東京」もチーム名が変わる?
「地域ブランディングの観点から言えば、(チーム名に)『東京』を冠するのはダメだと改めて思った」(西辻勤GM)

リーグワンでは母体企業の力学が強く働いている。現実的に企業名を外すのは難しいだろうが、「リコーブラックラムズ世田谷」になる可能性は、あるかもしれない。
佐伯氏「ラグビーは国籍の境界線がないのが魅力」
イベント終了後、佐伯氏は囲み取材にも応じた。
ラグビーへの目線を聞いた。クラブのあり方については「ラグビーは国籍の境界線があまりないのは魅力です。サッカークラブの場合は、選手獲得の際に国籍にすごくナーバスになってしまいますから」と指摘。また、ブラックラムズから学んだこととしては、クラブ活動の「本気度」を挙げた。
「(クラブのメンバー)全員で駅前に立ったり。私たちも手足を動かさないといけないなと、いつも活動を拝見しています」
当日は、リコー・ビジャレアル両クラブの関係者のほか、世田谷区長・保坂展人氏、元ラグビー日本代表・廣瀬俊朗氏、スポーツマーケティングラボラトリー・荒木重雄氏、横浜DeNAベイスターズ・住田ワタリ氏、大宮アルディージャ・西村卓朗氏など、多士済々の顔ぶれが集まった。

仕掛け人のリコーブラックラムズ東京の白崎雄吾・クラブビジョナリーオフィサーは「皆さん理念に共感してもらって、ノーギャラで集まっていただいたんですよ」と振り返る。今後も地域の課題とリンクさせながら、今日のような取り組みをしかけていきたいという。
取材・文:竹林徹(リードラグビー)
