気持ちの張り詰めた記者会見場、ミックスゾーンでは聞けないあの人のホンネ。フリーアナウンサー有働文子さんが聞き役をつとめ、監督・選手にインタビューする「VOICE」。第2回のゲストはクボタスピアーズ船橋・東京ベイの屋台骨立川理道選手だ。
チームは2年連続でリーグワンのファイナルに進みながら、頂点にはあと一歩届かなかった。手術と怪我に苦しんだ本人はどう振り返るのか。ルディケHCとの10年、ベスト4を目指すジャパンへの期待、好きなポジション、今後の展望まで…“ミスター・スピアーズ”のホンネをたっぷり聞いた(取材日:9月11日)。
※本記事はPodcastを再編集したものです
怪我に苦しんだシーズンも、頼もしい存在が出てきた
チームは9月から始動しています。オフはどんなふうに過ごされていましたか?
ファイナルが終わってから約2ヶ月、家族と過ごしたり、チームメイトと旅行に行ったり。その中でしっかりトレーニングもして、バランスよく過ごせましたね。
昨シーズンを振り返って、優勝にあと一歩足りなかったものは何だったと感じていますか?(※PO決勝でコベルコ神戸スティーラーズに敗れ、2季連続の準優勝)
本当に小さなことだと思うんです。チャンスで確実にポイントを取る、守り切るべきところで守り切る。そういう場面での小さなミス、小さな規律の乱れで、勝ち切れなかった。
今年はそこを見直しながら、大きな部分は変えずに優勝に向けしっかりチームを作り上げていきたい。
ご自身は、怪我に苦しんだシーズンでもありました。
9月中旬に手術をして開幕に間に合わず、復帰したらまた怪我、リハビリ中にも怪我を繰り返して……。個人的にはすごく苦しいシーズンでした。
ただ、チームは1試合ごとに成長する姿を見せてくれた。若手選手が自分から発言したり、ゲーム中にリードしたり、プレーでインパクトを出したり。クボタのこれからを担う存在が、どんどん出てきてくれました。
マキシ(ファウルア)選手にキャプテンに譲って2シーズンがたちました。
彼と話をしながら、リーダー陣のミーティングにも参加させてもらって見ていましたけど、彼のリーダーシップはすごく良かった。彼が引っ張るところにみんながついていって、チームが一つになる形が見えた。本人の自信にもなったと思うし、チームにとっても大きな経験でした。
具体的にアドバイスしたことはありますか?
まあ、本当に彼は1年目から素晴らしい選手なので。困った時やゲーム中にうまくいかない時に手助けできればと思っていたんですけど、あまりそういう状況もなかった。
逆に今年は、(バーナード・)フォーリー、(デーヴィッド・)ブルブリング、ラピース(ピーター・ラピース・ラブスカフニ)といったゲームでインパクトを与えてくれていたベテランが何人も退団したので、彼がもう一歩成長する場面が出てくると思う。そこで助けてあげられたらいいなと。
「またチームを作っていこう」忘れられぬルディケHCの一言
フラン・ルディケHCの体制は2016年から続いています。HCから教わったことで大きかったものは?
フランがチームに来たタイミングでキャプテンを任せてもらって、一緒に8年間やりました。彼は常にチーム全体をよく見ている。コーチへのマネジメント、選手がストレスなく練習や試合の準備ができるように、シーズンに向けたモチベーションを作ってくれる人です。
想い出深いのは…彼が来て2年目のシーズンです。チームとしての成長を感じていたのに、なかなか勝てなくて下位で終わってしまった。
シーズン後に2人で話していて、うまくいかなかったことを僕が言うと、「このチームを作ったのは俺とキャプテンだ」と。つまり責任を僕だけに背負わせず、一緒に取ってくれたんです。「またチームを作っていこう」と前向きに言ってくれて、その時はすごく救われましたね。もう1年、もう1年とキャプテンを続けるモチベーションになりました。

選手の自主性、オーナーシップを重んじる文化も、ルディケHCが作ったものですよね。
それまでもチームの文化はあったんですけど、より分かりやすく、みんなに浸透しやすくなった。大事なことをいろんな所に貼ったり、ノートに書かせたり。
50人以上いる選手の中で試合に出られるのは一部です。その中で「チームに対して自分は何ができるのか」、一人ひとりの居場所を作ってくれたのは大きかったですね。
立川選手が知る、ルディケHCの意外な素顔とかありますか?
基本的に自転車で通勤しているんですよ。天気が悪くなければ、40分くらいかけて。朝早くクラブハウスに来て自分のトレーニングをしたり、練習のことを考えたり。
それなのに、ここ10年、全く体型が変わっていない(笑)。昔の写真を見ると筋肉バキバキのいい体をしているのに、今は面影はない。お酒は一滴も飲まないので、食事が…(笑)。
「自分の言葉」で話す。8年間のキャプテンで学んだこと
8シーズンにわたってキャプテンを務めました。コミュニケーションで大事にしてきたことは何ですか?
みんなの前でも、少人数でも、1対1でも、自分の言葉で、自分の素直な気持ちを話すことです。
キャプテンになった当初は、コーチから与えられた情報をそのままみんなの前でプレゼンしていた。でもそれは自分の言葉じゃないから響かない。自分がちゃんと理解していないまま伝えていることも多かったんです。そういう状態だと、伝わるものも伝わらないなと痛感しました。
コーチのプランを一度自分で噛み砕いてから伝える。経験を積みながら、そこにたどり着きました。
外国人選手も多いチームです。彼らとのコミュニケーションで意識していることは?
基本は彼らを尊重すること。その一方で、日本の文化の中でやっていること、日本人選手や社員選手がいるチームだということも理解して、慣れてもらう。そのバランスは大事にしています。
言葉は英語ですけど、彼らも日本語を勉強していますし、今は携帯があれば何でもできるので。困ったことはないですね。マキシのように高校・大学から日本にいて、日本語も英語も話せる選手が間に立ってくれることもあります。
立川さんが考える「強いチーム」とは?
チームのカラーが分かりやすくて、見に来てくれた人にも伝わるチームなのかなと思います。単純にラグビーが強いというより、選手同士のコミュニケーションや風通しの良さって、見ていてなんとなく分かるじゃないですか。
そういうものは長い時間をかけて作るもの。そしてクボタはそれを作ってきた。今はすごくいい雰囲気なので、結果につながってくると思います。
では、理想のキャプテン像は?
兄たちもずっとキャプテンをやっていて、「目指すべきものだ」と思ってやってきた。でもいろんなタイプの人と一緒にやってきて、自分の形を見つけないと自分らしさが出ないと気づいたんです。
誰かの真似や理想のキャプテン像は、あまりなくてもいいのかなと。自分らしさがいちばん大事だと思っています。
長年キャプテンを務めた立川選手だからこそ、たどり着いた答えですね。
そうですね。1年、2年ではなかなか気づけない部分。廣瀬(俊朗)さんやリーチ(マイケル)さんのように、ナチュラルにリーダーシップを持っている方もいる。自分は違うので、同じことをやってもダメだった。だから自分らしさを出そうと。
“鬼軍曹”エディーさんが最近優しくなってきた説
2012年から日本代表として活動しています。代表で変わったことは?
一番感じたのは準備の大事さ。2012年に入った時のキャプテンが廣瀬さんで、それまで見てきたキャプテンとは違っていた。大学卒業したばかりの僕には、社会人の、自分より年上のすごい選手たちをまとめる力がすごく印象的でした。
廣瀬さんを尊敬している選手は多いですよね。日和佐篤選手は、飼い犬に「トシ」と名付けようと思ったそうで(笑)。
廣瀬さんのことを嫌いな選手はいないと思います。それぐらいの人格者。プレーだけじゃなく、チーム作りやリーダーシップに長けていた方でした。
エディー・ジョーンズHCの2度目の体制でも、2024年に代表入りしました。「エディーさんは優しくなった」という話をよく聞きますが。
若手や、いろんなバックグラウンドの選手に合わせてコーチングの仕方をうまくアジャストさせている感じはしますね。まあ、優しくなったとは思わないですけど…(笑)。
昔は、世界に勝つために体から鍛え直さないといけない時代で、厳しいトレーニングを乗り越えないと勝てなかった。今は選手のサイズもスキルも経験も違うので、そこを調整しているんだと思います。
2015年は、今振り返っても大変でしたか?
大変でしたね。W杯経験者も、世界と戦って勝った経験のある選手も少なかった。エディーさんのやることをとにかく信じてやるしかなかった。かなりキツい合宿を乗り越えてきました。
エディージャパンへの期待。15番の層をもっと厚く
日本がW杯でベスト4以上に進むには、何が必要だと思いますか?
まずは選手層。1つのポジションに(世界で戦える選手が)2、3人ではタイトな試合を勝ち切れない。予選プールを戦って、そこからノックアウトステージに入るわけですから、各ポジションに層があってこそです。
あとは1戦1戦経験を積みながら、日本らしさをどう出していくか。
具体的に強化した方が良いと感じるポジションは?
今でも、軸になる2番、8番、9番、10番は実力のある選手がすごく出てきている。気になるのは15番ですかね。もっと出てこないと、なかなか難しいかなと、個人的にはそう思っています。
注目は廣瀬雄也。「謙虚で、貪欲な選手」
クボタや日本代表で注目している選手を教えてください

代表に行ってくれている選手はみんな注目していますが、特に廣瀬(雄也)。同じ12番で、チーム内でもポジションを争っています。
経験を積みながら良くなっていて、代表でも試合に出れば必ずパフォーマンスを出す。自信を持ってプレーしているし、W杯に出てさらに良くなる選手だと期待しています。
アドバイスすることはあるんですか?
「こうした方がいい」はあまり言わないです。彼の良さと僕の良さは違うので。
ただ、練習中に「こういう状況ではどうしますか」と向こうから聞いてきてくれる。いろんな選手から吸収して良くなろうという貪欲さがあって、本当に謙虚で真面目な選手です。答えながら「僕だったらこうする」とは伝えています。代表でもクボタでも、これからチームを支えていく選手ですね。
スタンドオフとセンター。「性格的には12番が好き」
ご自身はスタンドオフとセンター、どちらがやりやすいですか?
性格的には12番が好きですね。10番はやることが多く、ゲームを作りながら最適な判断をし続けないといけない。自分は頭を使ってゲームをコントロールするより、作ってくれる人をサポートするほうが合っているんです。12番はフィジカルが求められますけど、そこは強みとして出せる。
ただ、出られるポジションならどこでも。10番もやれば楽しいですよ。

ゲームメイクが好きなタイプかと思っていました。
嫌いじゃないですよ(笑)。今のリーグワンの12番は、体格もスキルも求められるレベルがどんどん上がっていて、12番で続けるのが難しくなっているのは事実。10番の良さもあると思っています。
センターは外国人選手の活躍が目立ちます。日本人選手がレギュラーを奪うために必要なことは。
サイズやフィジカルももちろん大事。でも日本人選手の良さは細かさと基本スキルの高さ。海外の選手にはできないことや、ディフェンス、ワークレートの高さで勝っていくことが日本人選手の価値になる。
日本人らしさを守りつつ、各選手の個性を生かせばチャンスはあると思います。
クボタ一筋14年。チームを取り巻くポジティブな変化
クボタ一筋で14年。あらためて振り返っていかがでしょう。
僕が入った1年目は、トップイーストだったんですよ(※2010年度にトップリーグから降格。2011、12年度は下部リーグを戦い、2013年度に復帰)。正直つらかったですけど、あの経験をしておいて良かったと思っています。
今の選手たちは、その時代を知らない。知る必要もないんですけど、当時一緒にやってきた人たち、OBの方々、そして1回落ちても変わらずサポートしてくれた会社。優勝したり試合に勝ったりした時に、そういうことを思い出すんです。

明確に「変わった」と感じるところは?
選手一人ひとりの意識ですね。結果が出て意識の高い選手が来てくれるようになったのもありますし、長くいる選手も日々の練習・準備の姿勢が変わった。
スタンドも、昔は社員の方が多かったのが、今は社外のラグビーファンの方がたくさん来てくれるようになって、社員の方も一緒に応援してくれる。スピアーズというブランドの価値が上がれば、クボタという会社の価値にもつながる。そこで貢献して、会社に恩返ししたい気持ちは強いです。
年齢関係なく、納得いくまでプレーを続けたい
現在36歳。今後のキャリアはどう考えていますか?
まだ現役をやらせてもらっているので、今できる範囲で一生懸命やる。コーチングを勉強してコーチをやりたいと思っています。
でもそれはその時期が来た時に。並行してできるほど器用じゃないので、現役のうちは現役に集中して、その時が来たらしっかり切り替える。
何歳まで、というイメージはありますか?
年齢はあまり気にしていないです。「35を越えたら」とよく言われますけど、今のところ関係なくプレーできている。契約してもらえる間はやりながら、チームに貢献できて、自分が納得できる体であれば続けたい。
40歳を越えてからなのか、もしかしたら来年かもしれない。できないと思えば、そこは決断します。
コーチの話しが出ましたが、興味のあるチームは。
トップレベルのチームでコーチをしたい。まずはリーグワンのクボタで出来たらいいなと。その先はタイミングと状況次第で、やってみないと分からないですね。目標は高く持っていたいです。
4兄弟全員に「道」。「理道」の名前の由来は…
立川家は4兄弟そろってラグビー一家(※長男・教道さん、次男・誠道さん、三男・直道さんも元ラグビー選手)。今も集まりますか?
この夏も地元でみんな集まりました。仲はすごくいいですね。
全員の名前に「道」がつきますよね。「理道」の由来は?
「はるみち」という読みは早く決まったのに、漢字がなかなか決まらなかったらしくて。最初の候補はさんずいの「治」。「治める」という意味です。
どういうことですか?
僕は4人目で、親は本当は女の子が欲しかったらしいんですよ。お腹の中でまた男だと分かって、「もうこれで治めよう、最後にしよう」と(笑)。
さすがにかわいそうだという話になって、父親の名前から「理」の字をもらった、と聞いています。正確なところは分からないので、母親に聞くしかないですね。
ラジオ、サウナイベントをやっていて良かった!
コロナ禍から続けてきたラジオ(※サンゴリアス・垣永真之介選手との「ハルのいろり話」。垣永選手の引退に伴い今年終了)が終わりましたね。
コロナ禍の時期、無観客でファンの方に会えない中、垣永と「何かできることはないか」と話して始めたのがラジオでした。意外と好評で。
どちらかが引退したらやめる、と最初から決めていたので、終了は決めていたこと。後悔は全くないです。スパッとやめて、最後はイベントで皆さんと締めくくれました。
ラジオで得たものはありますか?
それはすごく感じるんです。
クボタのファンだけでなく、いろんなチームのファンが聞いてくれて、そこからクボタや垣永のファンになってくれたりした。チームを応援するのとは別に、僕個人を応援してくれる層ができた。やっていなかったら感じられなかったことです。
引退する時には、もう一度だけラジオを復活させてイベントもやりたいなと。本当に最後の最後に。
Instagramを見ているとサウナの投稿も多いですね。最近オススメのサウナがあれば教えてください。
そうですね…2年前くらいは新規を開拓しまくっていたんですけど。最近は落ち着いて、近場の好きなところにゆっくり通う派になったんです。
熱が冷めたわけではないですよ(笑)。サウナのイベントもやらせてもらって、サウナーの方が試合に来てくれたり、ラグビーファンがサウナーになってくれたり。お互いをいい形でつなげられたのは良かったです。

最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
2シーズン続けて決勝で負けてしまったので、今年はもちろん優勝を目指します。ただ、決勝ばかりを見るのではなく、まず開幕戦に勝つ。そこから1戦1戦積み上げて、最後に優勝できれば。
チームと一緒に、熱くしていただけたら嬉しいです。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、立川理道選手でした。ありがとうございました!

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