タックルの代わりに「タッチ」で止める、6人制・接触なしのラグビー――タッチラグビー。ワールドカップの参加チームはこの9年で2倍に増え、2024年には39の国・地域から4,000人が集まる大会に育った。イングランド、アメリカ、中国では、ラグビー協会本体が普及の入り口として抱え込み始めている。
小学校の「タグラグビー」と高校の「15人制」のあいだ、中学ラグビーの空白を埋める一手として、データから考えたい。
タッチラグビーW杯、参加チームは9年で2倍に

タッチラグビーは1960年代にオーストラリアで生まれた。ラグビーリーグの選手がウォームアップ用に始めたのが起源で、統括団体の国際タッチ連盟(FIT)は1985年設立。現在の加盟団体は70以上、プレー国は100を超える。
その成長ぶりを一番わかりやすく映すのがワールドカップだ。
| 開催年 | 開催地 | 参加チーム | 参加国・地域 |
|---|---|---|---|
| 2011 | エディンバラ(スコットランド) | 92 | 28 |
| 2015 | コフスハーバー(豪) | 90 | 25 |
| 2019 | プトラジャヤ(マレーシア) | 119 | 28 |
| 2024 | ノッティンガム(英) | 187 | 39 |
2015年オーストラリア大会の参加は90チーム。それが2024年イングランド大会では39の国・地域から187チーム・4,000人が集まり、1週間で1,100試合が行われた。参加チームは9年で2倍超。カテゴリは13に増え、女性の参加比率は31%に達した。次回ワールドカップは2028年10月、ニュージーランドで開かれる。
タッチラグビーはどれぐらいの人がやっているものなのか。
本家オーストラリアは年間の総参加者約63万人(Touch Football Australia、2024-25年度)。ニュージーランドも参加者15万人超(Touch NZ)。日本もジャパンタッチ協会(1989年設立)が「愛好者10万人余、指導員700余名、47支部」をうたっている。
競技力も高い。2019年大会ではメンズオープン・ウィメンズオープン・メンズ40の3カテゴリで銅メダル。2024年大会は女子オープンが4位(準決勝でニュージーランドに3-10、3位決定戦でイングランドに2-5)だった。オーストラリアがほぼ全カテゴリを制する世界で、日本はオセアニア2強に次ぐグループの一角にいる。
タッチラグビーに未来を感じる4ポイント
理由は大きく4つある。
①「手軽さ」と「安全」が両立している
ルールは驚くほどシンプルだ。1チーム6人(登録は14人まで)、交代はいつでも何度でも。フィールドは70m×50mでラグビー場の半分ほど、試合は20分ハーフ。キックはなく、タックルの代わりに相手に手で触れれば「タッチ」。6回タッチされたら攻守交代で、スコアラインを越えてボールを置けば1点だ。スクラムもモールもラインアウトもない。
必要なのはボール1個と、6人。接触がないから脳震盪や骨折のリスクは劇的に下がるだろう。学校や保護者が「安全・安心」を求める時代に、これほど相性の良い競技はない。
②「生涯スポーツ」として設計されている
2024年ワールドカップの13カテゴリには、メンズ55、ウィメンズ40、そして男女混合のミックスドオープンまで並ぶ。タッチラグビー日本代表の矢後大地選手は「カテゴリーがたくさんあるので、親子で大会に参加している人がいる」ことを魅力に挙げる。同じく日本代表の堀誉弘選手も「小さい子供からお年寄りまで老若男女が楽しめる生涯スポーツ」と語る。
実は競技人口の底は、他のどのスポーツよりも広いかもしれない。
③ 各国ラグビー協会が「入り口」として抱え込み始めた
世界では、ラグビーユニオンの統括団体そのものが、タッチラグビーを普及戦略に組み込むうごきがみられる。
- イングランド:RFU(イングランドラグビー協会)は2018年、イングランドタッチ協会と正式提携。RFUが運営する社会人向けプログラム「O2 Touch」は当時すでに登録2万5,000人。RFU側は「O2 Touchで競技を始めた選手がヨーロッパ選手権に出るのは素晴らしい」と、草の根から代表までの一本道を認めた。
- アメリカ:USAラグビーは2019年、USAタッチを「新カテゴリ」として傘下に統合。登録・保険を一本化し、代表チームは協会のハイパフォーマンス部門と協働する。当時のCEOは「新しいラグビー選手にとって完璧にアクセスしやすい非接触形式」と説明した。
- 中国:中国ラグビー協会は2026年1月、FITと覚書を締結。学校・大学・クラブでの5年間の指導プログラムを走らせ、2030年に100万人を目指す。
「ラグビーを始める入り口は、接触なしでいい」世界のラグビー協会はそう割り切っているということだろう。
④ 別競技としての奥深さ
「ラグビー選手なら簡単に勝てる」と思う人もいるかもしれない。7人制日本代表としても活躍した藤田慶和選手(栃木ホンダヒート)が2022年、自身のYouTubeで「タッチラグビー日本4連覇のチームと対決!!」という動画を公開している。相手は全日本選手権を制してきた東京タッチジャンキーズ(現・東京サンズ)。結果は…藤田チームがタッチ専門チームに圧倒される衝撃の展開…。
最近タッチラグビーにハマったさるラグビー通も「実際に試合を見ると意外だったのは、横に散らさず縦、縦、縦と突いて、最後に横へ振る攻め方。6回の攻撃で必ず攻守が入れ替わるから、攻めと守りがはっきりして、初めて見る人にもわかりやすいね」と観戦者目線でうなる。
ジャンキーズが参加した交流戦を取材した記事では、日本代表の矢後選手が「ラグビーのトップ選手に『タッチラグビーは楽しい、これはラグビーにも活きる』と言って頂けた」と語っている。競技として面白く、なおかつラグビーに還元される。だから続く。
日本の空白は「中学」にある。日本協会とタッチ協会の連携を
ここで日本に目を戻そう。
日本のタッチラグビーは、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)の管轄ではない。統括するジャパンタッチ協会は一般社団法人で、日本レクリエーション協会と国際タッチ連盟に加盟している。JRFUが普及の柱として押しているのは小学校向けの「タグラグビー」だ(以前の記事で書いたとおり、全国の小学校の62%が実施、体験児童は約77万人)。
つまり日本のラグビー普及の流れは、小学校=タグラグビー→ 高校=15人制となっていて、そのあいだの中学にぽっかり空白がある。

JRFUの登録データを見ると、中学生のラグビー人口そのものは増えている。ただし増えているのはラグビースクール(5,265人→8,751人、6年で+66%)であって、中学校の部活動は5,774人→5,278人、チーム数は312→276と、6年で36チームが消えた。
理由は構造的だ。ラグビーは全国中学校体育大会(全中)の実施競技ではなく、中学の部活としては制度の外側にある。2023年から始まった部活動の地域移行で指導者の確保はさらに難しくなり、そもそも1チーム分の部員が揃わない学校が多い(中学の全国大会は12人制)。「安全管理の負担が重く、人も集まらない部活」が、学校から静かに消えている。
JRFUが非接触に手を伸ばしていないわけではない。
ワールドラグビーが2023年に開発した「T1ラグビー」(7人制・10分ハーフ・タッチかタグで止める)については、JRFUも2025年に特設ページを開設し、辰巳で体験イベントを開いている。ただT1は、スクラム・ラインアウト・キック・ブレイクダウンを"ラグビーらしさ"として残した設計で、ややハードルが高そうである。
やはり、以下の点からも中学でのラグビー部ならばタッチ一択ではないだろうか。
- 6人で試合が成立する。15人が揃わない学校でも部として存続できる
- 接触がない。顧問教員に専門的なコンタクト指導や高度な安全管理を求めなくて済む
- グラウンドは半面、用具はボール1個。地域移行後のクラブでも回る
- そして、パス・ランニング・スペース認識という「ラグビーの核」はそのまま高校の15人制へつながる
日本協会とタッチ協会がより連携しつつ、学校機関に落とし込めればラグビー普及の最高の種まきになるのではないだろうか。
文:リードラグビー編集部
