インタビュー リーグワン 名将論。

スピアーズ率いリーグ初優勝。「コレカラダ」 日本ラグビーを前に進めるフラン・ルディケHCの哲学

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スピアーズ率いリーグ初優勝。「コレカラダ」 日本ラグビーを前に進めるフラン・ルディケHCの哲学

写真:編集部

各カテゴリーで結果を残す名将に、その指導哲学と日本ラグビーへの提言を聞く。「名将論。」第1回のゲストは、クボタスピアーズ船橋・東京ベイのフラン・ルディケHC。

南アフリカ出身でスーパーラグビーのブルズを率い2度の優勝という実績を残し、フィジー代表コーチを経て、2016年からスピアーズのHCに就任した。トップリーグ時代2部落ちを経験するなど低迷していたチームを立て直し、チームは年々順位を上げ、ついに昨シーズンのリーグワンで初制覇を成し遂げた。そこにはどんな強化のプロセスがあり、どんな指揮官の哲学があったのだろうか。ルディケHCに話を伺った。

まず"クボタウェイ"の確立を目指した

着任後にまずやったことは、選手やスタッフ一人ひとりとの面談だという。日本という初めての環境で指導するに当たり、相手を理解することに時間を割いた。

彼らはどんなマインド、どんな文化を持っているか。どんなラグビーをしたいのか。そして、今の戦力とすり合わせてどんな戦い方をすべきか。対話をしながら"クボタウェイ"をつくりあげていった。

「オンフィールド・オフフィールド両面で選手たちがクリアに理解し信じられるものを作ることが第一でした」

▲「選手たちがクリアに理解し信じられるものを作ることが第一でした」と語るルディケHC
写真:チーム提供

もともとあった、チームの良い文化、強みはどんな所だったのか。

「ここに来て驚いたのは…相手への思いやりの心です。例えば、自分が迷子になったら目的の場所まで一緒に連れて行ってくれる。そんな人ばかりでした。会社(クボタ)のサポートや、社員選手の会社への忠誠心もレガシーとして感じました。オンフィールドではハードワークする姿勢や、接点でひるまないタフさがありましたね」

「選手レベルでも、当時から大型フォワードが揃っていて、バックスにもフィジカル自慢のトンガ出身選手が大卒で入ってきていました」

反面、80分を通してその強みを活かせないのが弱点でもあった。

「ハードワークが80分間続かず、実力のあるチームに大敗してしまう時期もありました。苦しい状況でどれだけ戦い続けられるか、という点は課題としてありました」

そうした長所と短所を踏まえ、就任当初はフォワードのセットピースとキックを中心に組み立てるシンプルなゲームプランに徹したという。


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一人ひとりに与え、求めた"オーナーシップ"

ルディケHCが来てからチームに与え、求めた姿勢がある。それが"オーナーシップ"だ。オーナーシップとはラグビーを自分ごととして捉え行動を起こす主体性のこと。

「なぜオーナーシップを与えるかと言えば、試合になれば選手個人が判断しなければならないわけだから」

オーナーシップの浸透には「立川さん。彼の過去7年間の貢献は計り知れません」と絶賛する立川(理道)主将が、他の選手やコーチを巻き込むなど大きな役割を果たしたという。

▲ルディケHCとチームづくりを共に進めた立川主将
写真:JRLO

オーナーシップを与えることは、もちろん指導を放棄して投げっぱなしにすることとは違う。双方向のやり取りが必要だという。

「"何か私にできることはあるか?"と問いかけたり、常に隣にいてサポートするようなイメージです。時には "これではダメ"とギアを変える場面もあります」

ルディケHCは各コーチ・スタッフにもオーナーシップを与え、権限移譲している。ディフェンスはディフェンスコーチ。チームビルディングはチームビルディング担当。細部の指導は任せ、自分は全体を見渡す立場でフィードバックを与える。こういったスタイルは、30年間という長いコーチ歴の中で培われたものだった。

「もともとは全然違うスタイルでした。コーチを始めたばかりの頃、学生チームを率いていた時はアタックもディフェンスもフォワードも…とぜんぶ一人で見ていました。"自分は何でもできる"と思っていたんです。でもそこからレベルが上がってくると、チェックすべきことも増え、夢の場所に向かうには他のコーチ陣を信頼して力を与える必要がある、と気づきました。反対にオーナーシップを与えすぎて負けてしまう。そんなレッスンも経験して、時間をかけて学んでいきました」

南アフリカでは、国代表"スプリングボクス"を率いてワールドカップ優勝も経験しているキッチ・クリスティ氏ら優秀なコーチとつながることができ、彼らからの学びも自身のコーチングスタイルに大きく活かされたという。

ルディケHCの哲学を読む、3つのキーワード

あらためてルディケHCのコアにある哲学に迫っていこう。3つキーワードをあげていただいた。

①「ライブチェック」

日本語に直すと「現場判断」という訳になるだろうか。指導スタイルは一つではなく、選手個々のキャラクターや状況を個別に判断し、柔軟に変化させるべし、という考え方だ。

選手目線では、先の"オーナーシップ"を元に下す、試合での状況判断が"ライブチェック"ということになる。

思い出されるのが2022-23リーグワン プレーオフ決勝・ワイルドナイツ戦だ。後半、スピアーズに逆転をもたらしたWTB木田晴斗のトライは、立川主将のとっさのキックパスから生まれた。まさしく"ライブチェック"の賜物だったと言っていいだろう。

②「コレカラダ」

良いことはこれから起こる、これからもっと良い自分になれる、というキリスト教的な価値観。クリスチャンのルディケHCにとって「自分にモチベーションを与えてくれるものです」という大切な哲学だ。

「自分の今の状態はまだベストではない。神様が自分をこれから成長できるように置いてくれている、という考え方です。私自身もそうありたい、他人に良い影響を与えたいと思っています」

そのためには「扉を閉める」ということも必要になるという。

「ラグビーでは試合やシーズンが終われば、"これまで"の扉を一度閉めます。優勝したのであればそこで祝福します。そして、どんなことが上手くいったのか、どんなことが学べたのかをクリアにします。そこから次の"これから"に向かっていくのです」

目標設定をして行動を起こす。そして一区切りしてその結果をレビューする。そこからまた改善する。「扉を閉める」と表現は独特だが、ビジネスにも通ずる結果を出すための王道のプロセスと言えるだろう。

▲目標設定⇒行動⇒レビューのサイクルを回していく
写真:チーム提供

③「他者との良い関係性」

①と②のベースにあるとも言えるのが他者との良い関係性だ。

「自分一人では目標は達成できません。どうやって選手やスタッフをリードし、彼らをベストに持っていくか。その関係性に対して正直にフィードバックすることも必要です」

「妻、家族、友人、選手…色々な人から学んでいます。そのためには自分が成長するというマインドがなければダメだし、オープンにならなければいけません」


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日本ラグビー「やってはいけない」練習とは

南アフリカ出身の名将に、日本ラグビーへの提言も伺った。まず「やってはいけない」「時代遅れの」練習とは?という問いをぶつけてみた。

「なぜそれをやるのか、どうラグビーにつながるのか。それが理解できない練習では選手はロボット状態になってしまいます。例えば、罰を与えるためにただ走らせる、というような練習は良くありませんね」

「テクノロジーを活用しない練習も古いスタイル、と言えます。今はGPSなどもあります。スマートなやり方を模索すべきです」

実際にチームも、GPSの数値を見つつ選手の疲労度や運動量を測り、練習をコントロールしているという。

「足りないと思えば練習後に自主的に走っています。これがオーナーシップです」

▲スピアーズもフィットネス練習はスマートな方法を模索している
写真:チーム提供

リーグワンはもっと地上波放送を増やすべき

次にリーグワンのことについても聞いてみた。大物選手が続々加入し、かつてないハイレベルな戦いが繰り広げられているが、一般への認知度や観客数はまだまだ伸びシロを残す。

地域密着の流れ、マーケティングの努力、メディアの情報発信、レフリーとチームの関係性…「全体的に正しい道をたどっています」とルディケHCは笑顔で語る。ただ、「地上波での放送はもっと増やしてもいいかもしれない」と指摘した。

「リーグワンは今でもJSPORTSが全試合放送していますが、もっと地上波での放送があればいいなと思います。そうすればラグビーに触れる機会が増えます。そして、放送されたときに、観客がいっぱいの雰囲気のいいスタジアムが映って、 "じゃあ来週観に行こうかな"と。そんな流れが生まれると良いですよね」

また、日本でラグビーがサッカーや野球のような立ち位置になるには、子どもたちが憧れる存在になることが重要だという。そしてそのためには代表チームの活躍が欠かせない。

「南アフリカでは、男の子なら誰しも強い"スプリングボクス"に憧れています。代表チームが上手くいくと、小さい子たちにも伝わっていきます」

9月からのワールドカップ、日本代表"ブレイブブロッサムズ"には子どもたちの心に残るような戦いを期待したい。

取材を通して印象的だった、ルディケHCの"コレカラダ"という哲学。未来に希望を持ち、常にベストを求めていく。そのポジティブなアプローチは新鮮であり、日本ラグビー界全体が持つべきスタンスだと感じた。

取材・文:竹林徹(リードラグビー)

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