リーグワン

「安定した収益基盤は評価できる、だが物足りない…」ラグビー好き公認会計士がリーグワンの決算書を覗いてみたら。

「安定した収益基盤は評価できる、だが物足りない…」ラグビー好き公認会計士がリーグワンの決算書を覗いてみたら。

いよいよ、5シーズン目を迎えるリーグワン。注目されるのは、芝上の戦いだけではない。日本で初のプロラグビーリーグと言えるリーグの財務面も気になるところ。熱狂的なラグビーフリークである、公認会計士(政治家としての顔を持ち、石丸伸二氏立ち上げの政治団体「再生の道」より都議選に立候補した)久禮義継氏に、過去4シーズンの決算書に目を通していただいた。


1.はじめに

リーグワンは2022年に従来のトップリーグから再編され、本格稼働した新しいプロリーグである。創業期からまだ日が浅いものの、スポーツビジネスとしての事業基盤がどの程度確立されているかを把握することは、今後の成長余地や課題を検討する上で重要である。本稿では、リーグワンの公表資料および関連情報をもとに、業績の推移と財務状態を整理し、足元の収益構造や情報開示の現状について概観する。

リーグワン全試合ライブ放送!

DAZNに申し込む

Jリーグ、ゴルフ…他競技も充実

2.業績・財政状態について

(1)業績推移の概要

創業にあたる2021年度は立ち上げ投資の負担もあり若干の赤字(−0.7億円)となったが、2022年度以降は売上規模が安定し、2022〜2024年度の3期はいずれも30億円前後の収益規模で黒字を確保している。

世界的にプロラグビーリーグが財務的に苦戦する中で、リーグワンが一貫して黒字運営を維持している点は評価できる。

特に2023年度は、事業費を抑制できたことから経常利益率が約16.5%と最も高まり、経営効率が大きく改善した年となった。2024年度は放映権収入が前年比で約5割増との報道もあり、収益面では拡大基調を維持している一方で、事業費・管理費が増加した影響から経常利益率はやや低下した(注)。

経常収益は30〜33億円のレンジで安定しており、利益の変動は主に事業費の増減によって左右される。

具体的には、2023年度は事業費が約23億円まで抑制されたことで経常利益が4.9億円に伸長した一方、2024年度は事業費が約25億円に増加したことで利益は3.3億円に低下している。なお、管理費は2022年度1.7億円 → 2023年度1.6億円 → 2024年度1.9億円と、わずかながら増加傾向が見られる。

以上を総括すると、リーグワンは創業期こそ赤字だったものの、その後は3期連続で黒字を維持し、売上規模30億円前後・経常利益率8〜16%の範囲で運営されている、安定した収益基盤を有するプロリーグと言える。

(注)2024年9月期の経常収益は29.7億円と前年33億円より低く見えるが、これは会計処理(消費税の扱い)が税込から税別へ変更された影響であり、実質的には前年並みと説明されている。

(2)収益構造

決算書における「経常収益」は、「受取会費」「事業収益」「受取補助金等」「雑収益」から構成されている。このうち、本業収入である「事業収益」が全体の大部分を占め、会費・補助金・雑収益は補完的な位置づけである。規模感としては、これらサブ項目の合計は数億〜十数億円程度と推測される。

事業収益の内訳には、スポンサー収入、放映権収入、チケット収入、グッズやイベント収益、JRFUからの配分金などが含まれると考えられるが、リーグワンの決算書ではこれら詳細内訳は開示されておらず、すべて「事業収益」に一括計上されている。したがって、収益構造を正確に把握するには追加情報が必要となる。

3.情報開示について

現状、リーグワンが公表している財務情報は限定的であり、収益内訳を精緻に把握するには十分とは言えない。「物足りない」というのが率直な感想である。

具体的には、以下のような開示上の制約が見られる。

  • 年度別・項目別の収益推移(スポンサー収入、放映権収入、チケット収入など)が公式には開示されていない
  • 興行収入(観客数×チケット単価)について、詳細な金額の公表がほとんどない
  • 放映権収入も「メディア権収入」として総額のみが報じられ、国内外の比率や契約形態別の内訳は開示されていない
  • スポンサー収入も、タイトルパートナー、オフィシャルパートナー、ユニフォームスポンサーなどの区分別データは公表されていない

このように公開情報が限定されているため、情報の深度を高めるには、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)の年次報告書や中期計画、各チームの事業報告書(興行収入の明記があれば有用)、さらにはスポーツビジネスメディアなどの二次情報(注)を併用する必要がある。

しかし、一次情報の開示水準が低い現状では、二次情報を組み合わせても精緻な推計や詳細な財務分析には限界があり、リーグ全体の業績・財務状況の全体像を正確に把握するにはなお課題が残る。今後、リーグワンとして公式にアニュアルレポートを作成し、財務・経営に関する開示項目を拡充することで、ステークホルダーに対する透明性が大きく向上することが期待される。

(注)2022年度については、スポンサー収入約21億円、放映権収入約4.2億円とする報道がある。また、JRFUの年次報告書ではラグビー全体の収益構成比が「スポンサー44%」「チケット10%」「放映権5%」とされているが、これはリーグワン単体のデータではない点に留意が必要である。

4.結論

リーグワンは、創業期の赤字を経て、2022年度以降は30億円規模の安定した収益を確保しつつ3期連続の黒字を維持している。

利益率の変動はあるものの、収益基盤は十分に強固であり、黒字体質が定着しつつある。収益の大半を占める事業収益は安定的に推移しており、放映権やスポンサー契約拡大による上振れ余地も大きい。一方で、費用構造の変動が利益を左右するため、事業費・管理費の最適化は今後の重要課題である。

総じて、リーグワンは健全かつ持続可能な運営体制を整えつつあり、さらなる情報開示が行われれば、より高度な財務分析が可能になるだろう。リーグ関係者への取材が叶えば、ぜひ事業収益の内訳などを伺ってみたいところだ。


(参考)リーグワンの損益計算書・貸借対照表

文:久禮義継

  • この記事を書いた人

久禮義継

ミシガン大学MBA(経営学修士)。TOEIC980。公認会計士・米国公認会計士試験合格。大手監査法人や外資系金融機関を経て独立。ラグビー観戦歴は30年超で、国内外の試合を追い続けてきた。プレーの迫力や戦術の妙、選手が背負うストーリーに魅了されてきた。ビジネスでは政策提言や出版、テレビ・新聞等で積極的に発信してきた経験があり、ラグビー競技の発展やリーグ運営の可能性にも強い関心を持つ。主に、日本ラグビー界の未来を社会・経済の視点から考察したいという思いで、本コラムに臨む。

オススメ記事

1

リーグワンを毎節ピッチレベルで取材を続けてきた編集者兼ライター・フォトグラファーの齋藤龍太郎氏が、今シーズンを総括。選手や指揮官の言葉、スコアという数字からにじんでくるリーグのレベルアップとは。 海外 ...

2

フリーアナウンサーとして活動しながら、「ラグビーカフェ」のインタビュアー兼編集記者として、リーグワンを精力取材。有働文子さんが見つめる“イケメン選手”とは?をテーマに寄稿いただいた。 NTTジャパンラ ...

3

冬の花園、過去5大会で3度の全国優勝。高校ラグビー界で"東のヨコヅナ"という異名を持つ東日本屈指の強豪校、桐蔭学園の勢いが止まらない。「名将論。」第2回のゲストは、コーチ時代も含め約30年に渡って同校 ...

-リーグワン
-, , , , ,